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切手の話 vol.3 谷内六郎


切手の話、今回は谷内六郎(季節のおもいでシリーズ第1集・2012年発行)です。
最初に言っておくと、僕は谷内六郎の絵はあまり好きじゃなかったんですね。いかにも日本的なノスタルジーという印象で、「どうも甘ったるいな」と思って素通りしていました。今から思えば若かったのかもしれません。

ところがある日郵便局で、たまたまこの切手シートを見かけたとき、ズンと目に飛び込んできた。「お、こうして見ると谷内六郎の絵って、いいな」と。それで思わず買ってしまったわけです。なんて言うのでしょうか。切手のフレームに入ることで、今までと違って見えることがあるのですよ。

じっくりと見ていくと、谷内六郎の絵はけっこう変わっています。左上の「川風の音」では、風の精のようなものが笛を吹きながら飛び、その右の「夜店の思い出」では、膨らんだシャボン玉の中に金魚やヨットが入っている。さらにその下の「霧の中の夢」では、白樺の林の中にいるのはシマウマです。

とくにシマウマは本来アフリカにいるものですからね。それが白樺の林の中にいるというのは、よく考えるとかなり飛躍しています。「いや、そこにシマウマがいるのはマズいんじゃないでしょうか」と口を挟む人がいてもおかしくない。

日本的なノスタルジーだと思っていた絵が、じつはけっこう非現実的だったりする。その点について、橋本治氏は芸術新潮2001年5月号で、「谷内六郎は、本質的にシュールレアリストである」と書いています。

さらに橋本氏はこんな風に書いています。「谷内六郎は、『現実を超えたものが現実の中に収まって、そのまま現実になっている』なのである」と。同時にそれは「日本人が見ようと思えばつい見てしまうような、『当たり前の風景』なのである。だから我々は、空に牛乳瓶があっても驚かない。それを「こう」と指摘されれば驚いて、しかしその実、一向に驚かない」と。

そう言われてみると、たしかに白樺の林にいて欲しいのは、栗毛の馬ではなく、シマウマだという気もしてきます。川辺でせせらぎを聞くとき、そこには風の精が笛を吹いていて欲しい。それはどこか子供っぽい憧憬にも見えますが、ここにあるノスタルジーとは、かつての日本と言うよりも、現実と幻想の境目がなかった子供時代へのノスタルジーなのかもしれません。

ちなみに谷内六郎は「近世駄菓子屋派の巨頭」を目指していたそうです。駄菓子屋派、いい言葉ですね。

この谷内六郎の切手、 去年の発行ですから、郵便局によっては今でも在庫があったりします。80円×10種で1シート。僕も先日、近所の郵便局で見かけて、1シート買い足しました。興味のある方は探してみてください。日本郵政のサイトでも販売しています。

そういうわけで切手商でもないのに、切手の宣伝ばかりしているような気もしますが、「ここちよいもの」展の制作も着々と進んでいます。やっと頂上が見えてきました。まだ全体の半分ほどしか出来ていませんが。まあ、頂上というのは五合目ぐらいから見えてくるものですから。

2013年8月14日 水曜日


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