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切手の話vol.6 モナコのペロー童話

neko今回はモナコ公国発行の1978年の切手です。

ペロー童話と聞いても、グリムやアンデルセンに比べると、あまり馴染みがないかもしれませんが、17世紀にフランス人のシャルル・ペローによってまとめられたもので、「眠りの森の美女」や「赤ずきんちゃん」も出てくる古い童話集です。

写真はその中の「長靴をはいた猫」。有名な童話ですが、じつはどういう話なのか僕は知りませんでした。この切手、話の中身がわからないと楽しみが半減するんですね。幸い、青空文庫に収録されています。知らないという方はぜひご一読下さい。10分ぐらいで読めます。なかなか愉快な話です。

「猫吉親方」などという訳はなかなか味わいがありますね。お読み頂けたという前提で話を進めますが、改めて上の切手を見ると、真ん中にいるのは長靴をはいた猫吉親方。左手に持っている袋で、兎を罠に仕掛けている。画面右の池で溺れているのはカラバ侯爵。画面左のお城はたぶん人くい鬼の城でしょう。猫吉親方が右手で掴んでいるのもどうやらネズミに化けた鬼らしい。

と、童話の内容が1枚の切手にまとめられているのに驚くわけです。これはすごいですね。単にストーリーを詰め込んでいるだけでなく、快活で面白みのある物語の雰囲気も伝えている。デザイナーの見事な手腕です。ついでに言えば右上あたりにも何やら建物が。お話を読んだ方には何かおわかりでしょう。本当に芸が細かいです。

P1240156_DxOこのペロー童話の切手は9種組で、いずれも凹版多色印刷。凹版とは、金属板にじかに版を手彫りして原版を作る手法。非常に精緻な技が要求される印刷ですが、その多くは1色のみです(ニルスの切手を参照ください)。

ところが、モナコのこの切手は多色なんですね。「長靴をはいた猫」では4色使われています。右側の切手は「ロバの皮」という話で、落ち着いた渋い色調ながら、5色も使われています。実際の制作作業がどんなふうに進められているのかは僕もわかりませんが、凹版の場合、5色なら5つの版が必要ということは言えるでしょう。単色は1版で済みますから、はるかに手間もコストもかかるわけです。

P125170_DxO左は「青ひげ」。青ひげと呼ばれる金持ちの男は今まで何度も結婚しているのに、奥方はいずれも行方不明。その男と新たに結婚した女性が、ある日、開けてはいけないと言われた部屋の鍵を渡されて、という話です。

この切手は3色使われていますが、面白いのは青ひげの体全体を紺色で描きながら、髭の部分だけを明るいブルーで際立たせているところ。このあたりも非常に芸が細かいですね。右の奥方もどこか虚ろな表情で鍵を眺めていますが、いかにも開けちゃいけないと言われてるのに開けてしまいそうな雰囲気が漂っています。

モナコは元々フランスとの繋がりが強い国で、切手の製造もフランスで行われています。小国などは自前で印刷できる技術がなかったりしますから、他国や切手エージェントに依頼することがしばしばありますが、そういう中には自国の風土や文化と無縁な図柄も多く、「デザインも何もかも丸投げしてるのかしら」と疑問も持つような切手も少なくありません。

その点、モナコの場合は長い歴史を持った風光明媚な公国というイメージを裏切らない、きっちりとしたクライアント側のポリシーが感じられますね。芸の細かさ、印刷にかけられた手間と技術、けばけばしくないラグジュアリー感、贅沢とはこういうことかと唸らされます。

2014年1月28日(火)


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