切手と手紙の話

Posted on 2015-02-23
アメリカのポストカード

OLYMPUS DIGITAL CAMERAポール工房では「Letters to Samuel」というレーベルでトートなどを作っていますので、ときどき手紙や郵便にまつわる話を書いています。今回取り上げるのはアメリカのアンティークなポストカードです。

上の写真はオレゴン州の「ブーンズ・エル・パド・モーテル」のもの。おそらくモーテルが客室のアメニティとして制作したものでしょう。撮影されたのは1950〜60年代だと思われます。

ちなみにモーテルとはMotorとHotelを組み合せた造語で、自動車で旅する人たちのためのホテルとしてアメリカを中心に発達しました。日本でも昔はモーテルと名のつくロードサイドのホテルがちらほらあったものです。

このエル・パド・モーテル、ハイウェイ沿いに存在したようですが、夜空に浮かび上る建物と看板がなんとも旅情を誘います。街灯の光りも美しくアスファルトを照していますね。ふと駐車場に目をやると、停まっている車はクラッシックカーと呼びたいものばかり。このあたりにも時代が感じられます。

ハガキのオモテ面にはモーテルの概要も記されています。ちょっと訳してみましょう。

AAA(注:アメリカ自動車連盟の略で、宿泊客が会員だと各種サービスを受けられる)
21部屋 無料ラジオ 電話 無料テレビ 清潔なベッド
新しくモダンで広々とした部屋、浴槽付きのタイル張りバスルーム、床一面のカーペット、近くにリクリエーション・エリア有り。ダウンタウンのショッピング街すぐ。

現在からすればとりたてて特徴のあるホテルではないでしょう。しかし、当時からすれば最新の設備だったのかもしれません。オーナーの誇らしげな顔が目に浮ぶようです。リクリエーション・エリアが具体的に何だったのかわかりませんが、僕の脳裏にはなんとなくビリヤード台の付いたバーが浮びます。

もし旅先の誰かからこんなポストカードで手紙をもらったら、旅情に駆られて思わず泊まってみたくなるかもしれませんが、残念ながらこのエル・パド・モーテル、現在は既に廃業しているようです。ポストカードの中にだけ存在する幻のモーテルなのです。

2015年2月23日(月)

RSS Feed  Tags:,
Posted in 工房日誌 | Comments Closed

 

Posted on 2014-01-28
切手の話vol.6 モナコのペロー童話

neko今回はモナコ公国発行の1978年の切手です。

ペロー童話と聞いても、グリムやアンデルセンに比べると、あまり馴染みがないかもしれませんが、17世紀にフランス人のシャルル・ペローによってまとめられたもので、「眠りの森の美女」や「赤ずきんちゃん」も出てくる古い童話集です。

写真はその中の「長靴をはいた猫」。有名な童話ですが、じつはどういう話なのか僕は知りませんでした。この切手、話の中身がわからないと楽しみが半減するんですね。幸い、青空文庫に収録されています。知らないという方はぜひご一読下さい。10分ぐらいで読めます。なかなか愉快な話です。

「猫吉親方」などという訳はなかなか味わいがありますね。お読み頂けたという前提で話を進めますが、改めて上の切手を見ると、真ん中にいるのは長靴をはいた猫吉親方。左手に持っている袋で、兎を罠に仕掛けている。画面右の池で溺れているのはカラバ侯爵。画面左のお城はたぶん人くい鬼の城でしょう。猫吉親方が右手で掴んでいるのもどうやらネズミに化けた鬼らしい。

と、童話の内容が1枚の切手にまとめられているのに驚くわけです。これはすごいですね。単にストーリーを詰め込んでいるだけでなく、快活で面白みのある物語の雰囲気も伝えている。デザイナーの見事な手腕です。ついでに言えば右上あたりにも何やら建物が。お話を読んだ方には何かおわかりでしょう。本当に芸が細かいです。

P1240156_DxOこのペロー童話の切手は9種組で、いずれも凹版多色印刷。凹版とは、金属板にじかに版を手彫りして原版を作る手法。非常に精緻な技が要求される印刷ですが、その多くは1色のみです(ニルスの切手を参照ください)。

ところが、モナコのこの切手は多色なんですね。「長靴をはいた猫」では4色使われています。右側の切手は「ロバの皮」という話で、落ち着いた渋い色調ながら、5色も使われています。実際の制作作業がどんなふうに進められているのかは僕もわかりませんが、凹版の場合、5色なら5つの版が必要ということは言えるでしょう。単色は1版で済みますから、はるかに手間もコストもかかるわけです。

P125170_DxO左は「青ひげ」。青ひげと呼ばれる金持ちの男は今まで何度も結婚しているのに、奥方はいずれも行方不明。その男と新たに結婚した女性が、ある日、開けてはいけないと言われた部屋の鍵を渡されて、という話です。

この切手は3色使われていますが、面白いのは青ひげの体全体を紺色で描きながら、髭の部分だけを明るいブルーで際立たせているところ。このあたりも非常に芸が細かいですね。右の奥方もどこか虚ろな表情で鍵を眺めていますが、いかにも開けちゃいけないと言われてるのに開けてしまいそうな雰囲気が漂っています。

モナコは元々フランスとの繋がりが強い国で、切手の製造もフランスで行われています。小国などは自前で印刷できる技術がなかったりしますから、他国や切手エージェントに依頼することがしばしばありますが、そういう中には自国の風土や文化と無縁な図柄も多く、「デザインも何もかも丸投げしてるのかしら」と疑問も持つような切手も少なくありません。

その点、モナコの場合は長い歴史を持った風光明媚な公国というイメージを裏切らない、きっちりとしたクライアント側のポリシーが感じられますね。芸の細かさ、印刷にかけられた手間と技術、けばけばしくないラグジュアリー感、贅沢とはこういうことかと唸らされます。

2014年1月28日(火)

RSS Feed  Tags:,
Posted in 工房日誌 | Comments Closed

 

Posted on 2013-12-27
切手の話vol.5 オーストラリアの路面電車

PC270033_DxO久しぶりに切手の話です。1989年にオーストリアで発行された路面電車シリーズの中の1枚です。路面電車と言いつつ、左の切手では馬が引いています。馬車と鉄道の中間という感じでしょうか。

左上には筆記体による「Adelaide Horse Tram 1878」の文字。オーストラリア南部の都市アデレードで、1878年に走っていた馬車鉄道のようです。この馬車鉄道、調べてみるとかつては日本でも走っていました。ちょっとびっくりですね。

二頭の馬が軽快に駆けていく姿は実に清々しいです。そして馬車の車体がイエローなのも南半球にふさわしい明るさ。おまけに二階建てになっています。オーストラリアはこの当時、まだイギリスの植民地でしたが、ロンドンの有名なバスのように、どうもイギリスの人たちは乗り物を二階建てにする傾向があるのかもしれません。

PC270033_DxOここで僕の目を引いたのは二階部分の広告。19世紀にはすでに車体に広告を貼るという発想があったんですね。切手の場合、こういうときに架空の広告を入れることはないでしょう。おそらく実在したものではないかと思います。

早速調べてみたところ、左のCONTINENTALナントカはよくわかりませんでしたが、右の「MASON’S EXTRACT of HERBS」については、こんな画像を発見しました。ほぼ同じ会社の広告と考えていいでしょうね。

さらに調べてみるとこの会社、イギリスのノッティンガムの会社で「Extract of Herbs」という名前のボタニック・ビールを作っていたらしいです。ただ、ボタニック・ビールがどういうものなのか残念ながらよくわかりませんでした。ハーブのエキスを抽出しているらしいので、薬用酒のようなものだったのかもしれませんねえ。

PC270035_DxO思わず深入りしましたが、一枚の切手の中に思いの他たくさんの情報が詰まっていたりして、それを掘り出していくのも楽しみの一つであります。

このシリーズは5種類でワンセットになっていて、他の切手も美しいイラストが魅力的。車両だけでなく当時の風俗も一緒に描き込んでいるところがいいですね。そう言えば、左下の電車も二階建て。やはりイギリスの人たちは二階建ての乗り物が好きなのかもしれません。

2013年12月27日(金)

RSS Feed  Tags:,
Posted in 工房日誌 | Comments Closed

 

Posted on 2013-11-07
切手の話vol.4 シャーロック・ホームズ

PB06908_DxO切手の話ばかり書いていると、「ポール工房はいつから切手商になったのか」と言われそうですが、今回は1993年にイギリスで発行されたシャーロック・ホームズの切手です。

この切手は5種類1セットで発売されたもので、ホームズが登場する5篇の小説がそれぞれ描かれています。左写真は「ライギットの大地主」という小説のワンシーン。左の紳士がホームズ探偵、右がワトソン博士です。

ホームズが転地療養していた最中の事件、ということでおそらく療養中らしく彼の下半身に毛布が掛かっているのでしょう。バイオリンはふだんからホームズが趣味で弾いているもの。毛布やバイオリンの描写は小説には出てこないので、切手デザイナーによる脚色ですが、かなり芸が細かいです。

絵そのものにも挿画っぽいちょっと独特な雰囲気がありますね。線や影となる黒インクの部分はおそらく凹版印刷によるものだろうと思います。これは原版に彫版師がじかに版を彫っていく手法で、手彫りの跡がそのままインクになって現れます。

IMG_4022例えば、この場面は殺人事件の現場に残されていた手紙の切れ端をホームズが虫眼鏡が覗いているところですが、拡大すると右の写真になります。

手紙にもしっかり文字が書かれています。しかも、小説に出てくる「at quarter to twelve learn what maybe」という言葉まで再現。画像下の目盛りが1mm単位ですから、どれくらい小さな文字がおわかりでしょう。切手の彫版師はこの文字を原寸(!)で彫っているんですね。

このあたり、まさに彫版師の腕の見せ所かもしれませんが、この手紙の文字を刻みたいが故に、「ライギットの大地主」という小説が題材に選ばれたのではないか。そんな勘ぐりさえしたくなります。

PB069905_Dx左は同じシリーズの中から「バスカヴィル家の犬」。結末近くのクライマックスの場面です。ここまで画面が暗い切手も珍しいんじゃないでしょうか。それでいて、人物や犬が黒く潰れることなく、くっきりと描かれている。このあたりは印刷技師の腕の見せ所かもしれません。

右は「ホームズ最後の事件」で、ホームズがモリアーティ教授と対決して滝壺に落ちるという有名な場面です。ふたりの緊迫した姿もさることながら、岩肌にシダが生えているところとか、モリアーティの懐から懐中時計が飛び出しているところとか、このあたりも芸が細かいなあ、と感心します。

切手を作っている人たちが嬉々として取り組んでいる様が目に見えるようで、眺めていてじつに楽しい切手です。ちなみに左上に入っている金色の横顔はエリザベス女王の肖像。切手には国名を表記することが万国の間で取り決められていますが、イギリスは世界最初に切手を作った国ということもあり、国名の代わりに女王の横顔を入れているのです。

2013年11月7日 木曜日

RSS Feed  Tags:,
Posted in 工房日誌 | Comments Closed

 

Posted on 2013-10-29
古書五車堂の切手付き栞・2013秋

A229765_DxO
この夏ご好評だった、古書五車堂とポール工房のコラボレーション企画、切手付き栞が再び登場します。

11月1日(金)~17日(日)の間、岡山市中区浜の古書五車堂の店舗にて、本1冊お買い上げにつき、ポール工房特製の切手付き栞1枚を差し上げます。1冊につき1枚なので、5冊なら5枚というわけです。
栞についている切手は一枚一枚異なりますので、お好きな切手をお選び頂ければと思います。

今回の切手は、チェコスロバキア、ブルガリア、ポーランド、スウェーデン、フランス、デンマーク、アメリカと各国バラエティに富んでいます。その中からちょっといくつかご紹介。
PA229767_Dx
これはアメリカ切手で、肖像は作家のウィリアム・サローヤンですね。
僕も「パパ・ユーアクレイジー」は読みましたが、こういう顔立ちの人とは初めて知りました。

PA229766_DxO
ポーランドの切手。この人はロシアの地理学者で探検家のようです。
ちょっとほのぼのとする雰囲気の切手です。

PA229769_DxO
こちらはデンマークの鉄道切手。イラストが美しい。

PA229772_DxO
これもポーランドの切手。描かれているのは「ワルシャワサイクリスト協会」のようです。
僕はポーランド語はまるでわからないので、切手に記された情報をGoogleで調べているのですが、
こうやって調べるのも切手を鑑賞する楽しみの一つだと思います。

上記の切手、基本的にどれも1点物になりますので、なくなっていた際はご容赦ください。

僕も古書五車堂さんにはちょくちょく行っているのですが、棚を覗く度に「こんな本があったのか」という新たな発見があります。岡山近辺の方でまだ行ったことがないという方、あるいは「オープンした頃に行ったよ」という方、この機会にまたぜひお立ち寄り頂ければと思います。

2013年11月1日(金)

RSS Feed  Tags:,
Posted in 工房日誌 | Comments Closed

 

Posted on 2013-08-14
切手の話 vol.3 谷内六郎


切手の話、今回は谷内六郎(季節のおもいでシリーズ第1集・2012年発行)です。
最初に言っておくと、僕は谷内六郎の絵はあまり好きじゃなかったんですね。いかにも日本的なノスタルジーという印象で、「どうも甘ったるいな」と思って素通りしていました。今から思えば若かったのかもしれません。

ところがある日郵便局で、たまたまこの切手シートを見かけたとき、ズンと目に飛び込んできた。「お、こうして見ると谷内六郎の絵って、いいな」と。それで思わず買ってしまったわけです。なんて言うのでしょうか。切手のフレームに入ることで、今までと違って見えることがあるのですよ。

じっくりと見ていくと、谷内六郎の絵はけっこう変わっています。左上の「川風の音」では、風の精のようなものが笛を吹きながら飛び、その右の「夜店の思い出」では、膨らんだシャボン玉の中に金魚やヨットが入っている。さらにその下の「霧の中の夢」では、白樺の林の中にいるのはシマウマです。

とくにシマウマは本来アフリカにいるものですからね。それが白樺の林の中にいるというのは、よく考えるとかなり飛躍しています。「いや、そこにシマウマがいるのはマズいんじゃないでしょうか」と口を挟む人がいてもおかしくない。

日本的なノスタルジーだと思っていた絵が、じつはけっこう非現実的だったりする。その点について、橋本治氏は芸術新潮2001年5月号で、「谷内六郎は、本質的にシュールレアリストである」と書いています。

さらに橋本氏はこんな風に書いています。「谷内六郎は、『現実を超えたものが現実の中に収まって、そのまま現実になっている』なのである」と。同時にそれは「日本人が見ようと思えばつい見てしまうような、『当たり前の風景』なのである。だから我々は、空に牛乳瓶があっても驚かない。それを「こう」と指摘されれば驚いて、しかしその実、一向に驚かない」と。

そう言われてみると、たしかに白樺の林にいて欲しいのは、栗毛の馬ではなく、シマウマだという気もしてきます。川辺でせせらぎを聞くとき、そこには風の精が笛を吹いていて欲しい。それはどこか子供っぽい憧憬にも見えますが、ここにあるノスタルジーとは、かつての日本と言うよりも、現実と幻想の境目がなかった子供時代へのノスタルジーなのかもしれません。

ちなみに谷内六郎は「近世駄菓子屋派の巨頭」を目指していたそうです。駄菓子屋派、いい言葉ですね。

この谷内六郎の切手、 去年の発行ですから、郵便局によっては今でも在庫があったりします。80円×10種で1シート。僕も先日、近所の郵便局で見かけて、1シート買い足しました。興味のある方は探してみてください。日本郵政のサイトでも販売しています。

そういうわけで切手商でもないのに、切手の宣伝ばかりしているような気もしますが、「ここちよいもの」展の制作も着々と進んでいます。やっと頂上が見えてきました。まだ全体の半分ほどしか出来ていませんが。まあ、頂上というのは五合目ぐらいから見えてくるものですから。

2013年8月14日 水曜日

RSS Feed  Tags:,
Posted in 工房日誌 | Comments Closed

 

Posted on 2013-07-28
古書五車堂の切手付き栞

P7269077_DxO

岡山市中区浜にある古書五車堂さんにちょくちょく遊びに行っているのですが、あるとき、ふと五車堂店主から「切手が栞に付いていると面白いね」というアイデアが飛び出し、「じゃあ、ポール工房で作ってみましょうか」ということで作ったのが、上の写真です。

元々、僕も切手を使って何か出来ないか、と考えていたところですから、これも面白がりながら作ることができました。どの切手を貼ろうかと考えるのが悩みつつも、けっこう楽しい作業なんですよ。

この栞は古書五車堂さんで本を1冊購入すると1枚もらえます。3冊買えば3枚です。一枚ごとに切手が違いますから、店頭でお買い上げの場合はお好きな切手の栞を選べます。主にスウェーデン、フィンランド、フランス、ルーマニア、チェコスロバキア、ブルガニアあたりの使用済み切手になります。

ただ、数に限りがございます。上の写真の切手もすでに在庫切れになっている可能性はありますので、その点は予めご了承ください。

この切手付き栞、取り扱いはあくまで古書五車堂さんなのですが、ポール工房もとうとう紙モノに手を出してしまったなあ、と感慨にふけっているところです。元々、僕はグラフィックデザインに関わる仕事をしているので、まんざら畑違いというわけでもないのですが、従来どおり布モノにも精進していく次第でございます。

<2013年8月14日追記>
おかげさまで今回の栞のプレゼントは終了しました。古書五車堂に足を運んで頂いた皆様、どうもありがとうございました。

2013年7月28日 日曜日

RSS Feed  Tags:,
Posted in 工房日誌 | Comments Closed

 

Posted on 2013-07-09
切手の話 vol.2 スウェーデンのニルス

すっかり暑くなってきました。こういうときには、涼しげなものを鑑賞するに限ります。というわけで、2回目になる切手の話、今回は北欧スウェーデンの「ニルスのふしぎな旅」です。

この「ニルスのふしぎな旅」は、ニルスという少年がある日、魔法をかけられて体が小さくなり、ガチョウの背中に乗って旅をするという物語で、スウェーデンのノーベル文学賞作家セルマ・ラーゲルレーヴの書いた児童文学です。

ブルーと白の対比がとても美しい切手で、一見、単色で刷られているとは思えないほど。しかも、これは凹版切手です。

凹版切手とは金属板にビュランという彫刻刀で版を彫り、その彫り跡(凹部)にインクを載せて刷られたもの。例えば、この切手の大きさはおよそ3cm×2cmですが、彫られた版も3cm×2cmということです。つまり、凹版切手の場合、我々が目にしているのは印刷された絵柄であると同時に、極小の面積に彫られたビュランの跡でもあるんですね。

右の写真はルーペによる拡大図ですが、ニルスの顔の部分はたかだか2mm平方。これだけの面積の中で、ニルスの得意気でありながら、旅する者の一抹の孤独感までもがビュランで表現されていることに、僕は驚きます。この切手の彫版師はチェスラフ・スラニア。ポーランド生まれですが、スウェーデン郵政を中心に活躍した凹版切手界のスーパースターです。

改めて見ると、ガチョウは筋肉隆々でかなりマッチョですね。そしてブルーのインクは青空というより、どこか夜を思わせます。清々しい反面、全体的に淋しげな雰囲気があって、そのあたりも僕の好きなところ。ちなみに右下に書かれている「SVERIGE」はスウェーデン語による国名表記です。

これだけ猛暑が続くとですね、僕もガチョウの背中に乗って、どこか旅したいという気持ちもしないではないですが、これは小さな子供だからサマになるのであって、四十歳を越えたおじさんがガチョウの背中に乗っているのはいかがなものかと。そもそも僕は高所恐怖症なんですね。たぶん、そうなったら泣きながらガチョウの背中にしがみついていると思います。

2013年7月9日火曜日

RSS Feed  Tags:,
Posted in 工房日誌 | Comments Closed

 

Posted on 2013-06-24
切手の話 vol.1 マカオの切手

僕も小学生ぐらいの頃には切手を集めたりしていたのですが(当時は切手ブームだったのです)、中学に入る頃から熱は冷め、きれいだなと思う切手が目の前を通り過ぎても、特に自分で集めようと思わずにこの歳に至りました。

しかし、Letters to Samuelというレーベル名で「手紙」をコンセプトにしながら、切手や郵便のことにまったく無頓着なのもいかがなものか。そう考えていた矢先、書店で手に取ったのが加藤郁美さんの『切手帖とピンセット』でした。

この本、きれいな切手や愛らしい切手がたくさん載ってるんですね。その後、切手に詳しい方から話を聞いたり、切手の会に参加する機会があって、どんどん切手熱が燃えさかり、とうとう何十年ぶりかに自分でも集め出したというわけです。

その集めた中からいくつか紹介していこうと思うのですが、最初に言っておきますと、このとおり素人ですから正当な切手の解説などはできません。ただ、取りあげた切手について僕の思うところを述べるという感じになります。そういうおつもりでお付き合い頂ければと思います。

今回、取りあげるのは1991年のマカオの切手です。マカオの職業を紹介したシリーズなんですが、上の写真は占い師。まず何よりも、このイラストが味わい深い。たぶん男性が占い師で、女性がお客さんなんでしょう。肩の力が抜けた女性のポーズを見ると、あまり深刻な相談内容ではないという気がします。占い師の方もリラックスした感じですが、それでいて身を乗り出して耳を傾けている様子が窺えます。ちなみに壁に貼られた手相図には感情線が描かれてないですね。何か理由があるんでしょうか。

右はどうやら理髪師のようです。僕は中国語はまったくわかりませんが、「街道剪髪佬」と書いているところを見ると、たぶん街路脇でこうして営業しているんでしょう。このイラストも子供が足をぶらんとさせたまま、うなだれて髪を刈ってもらっている様子が非常に愛らしい。このイラスト、エミリオ・セルバンテスさんというマカオ生まれの画家の方が書いているんですが、マカオの街の臨場感がとてもよく伝わってきます。

マカオは1999年までポルトガル領だったので、91年のこの当時の切手には「REPUBLICA PORTUGUESA」(ポルトガル共和国)という表示が入ってます。「澳門」はマカオの漢字表記ですね。

色々調べてみると、マカオは住民自治が進んでいたために、ポルトガルは早い段階から植民地支配を放棄しており、中国政府に返還したがっていたらしいのですが、むしろ中国側からの要請で香港と同時期の返還になったようです。こうやって芋づる式にあれこれとわかってくるのも切手の面白いところです。

ということで、この切手の話は今後シリーズ化していくつもりです。「ポール工房の話と関係ないじゃない」と言われたらそれまでなのですが、うーん、何と言いますかね、息抜きとでもいいましょうか。何よりも、僕自身が切手の話をしたいので、宜しくお付き合いお願いします。

2013年6月24日 月曜日

RSS Feed  Tags:,
Posted in 工房日誌 | Comments Closed

 

1 / 11