アーカイブ ‘ 2009年 4月

読書の快楽

『読書の快楽』
(ぼくらはカルチャー探偵団編、角川文庫)

現在はブックガイドがあふれすぎて、かえって混乱したりするのかもしれませんが、僕が高校生ぐらいの頃に頼りにしたのが、この『読書の快楽』です。当時、多湖輝ばかりを読んでいた僕は、書店に置かれたこの本を長らく「エロ本のブックガイドなんだろうな」と思い込んでいましたが、ある日手にとってみて愕然。多湖輝だけじゃダメなんだ、世界はもっと広いんだと気付かされた一冊です。

本書の表紙を見てもらえればわかるとおり、ジャンルごとに各方面の「目利き」が選者になり、30〜50冊程度をピックアップして寸評を加えるという方式。

浅田彰、池澤夏樹、澁澤龍彦、中沢新一、高橋源一郎、天澤退二郎、蓮實重彦、荻昌弘、吉本隆明らが一堂に会するのはあたかも紅白歌合戦のようでもあります。今から思えば、当時のサブカルチャーのひとつのエポックだったかもしれません。

初版は昭和60年。残念ながら絶版ですが、かなり出回った本ですから、今でも古本屋などではわりと見かけます。ただ、本書自体が20年以上前のものなので、そこで紹介されている本はさらに古い、ということは頭の片隅に留めておいた方がいいでしょう。
もっとも、ブックガイドとしての実用性よりも、各選者が本を紹介していくときの「手際」あるいは「芸」を楽しむのが、この本には一番ふさわしいかもしれません。

例えば、ポルノグラフィーを担当した澁澤龍彦の文章から。
「ビアズレーの『美神の館』は、みごとにカッとされた宝石のように美しい光を乱反射する小傑作である。騎士タンホイザーが女神ウエヌスの丘を訪れ、そこで歓楽のかぎりをつくす。その一つ一つのエピソードが凝りに凝った筆で簡潔に描写されている」。
小傑作、という言葉がいいですね。

あるいは、内田百閒の『御馳走帖』を評した荻昌弘の文章から。
「のんびりと人を食った語り口のユーモアからわき出る、人生へのいきいきした好奇心。しかも批評精神にみちた知性の弾力。この一冊は、ひとを食への快楽に誘うだけではない、おいしい随筆とはこのような文章をいうのだと思わせる、いわば文の美味にみちている」。
知性の弾力、文の美味という表現が秀逸です。

いずれも簡潔にして要を得た、それでいて瑞々しい文章です。
ここの僕の文章みたいに、やれ銭湯に行っただの、やれ高校生の頃にはどうだったのと、個人的な感慨にふけって、だらだらと書いてちゃダメなんです。そういう意味では、要約とはこうやって書くもんだ、というお手本帖になっていると言えるかもしれません。

『読書の快楽』はシリーズになっていて、この後、選者を変えながら、文庫本に絞った『活字中毒養成ギプス』、ミステリーを中心にした『ミステリーは眠りを殺す』などへと続いていきます。編者は同じ「僕らはカルチャー探偵団」で、版元も角川文庫。『短篇小説の快楽』では冒頭に、金井美恵子、中沢新一、荒俣宏の鼎談が載っていますが、金井美恵子が中沢、荒俣の両名を小気味よく撫で斬りにしていくさまが楽しめます。

今回の副読本は、これもロングセラーになっているブックガイド『高校生のための文章読本』。書店によっては参考書のコーナーにあったりしますが、大人でも十分楽しめます。こちらは、実際の小説や随筆の一部が掲載されているのが特徴。上記の荻昌弘の寸評を真似て言うなら、試食をさせてくれるのがうれしいですね。
『高校生のための文章読本』
(梅田卓夫・清水良典・服部左右一・松川由博編、筑摩書房)

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