Store Front : The Disappearing Face of New York (James T. Murray, Karla L. Murray著、Gingko Pr Inc)

Store Front、日本語に訳すなら「店の正面」でしょうか。その名の通り、この本はお店の正面ばかりを撮り集めた写真集です。場所はニューヨーク。マンハッタン、ブルックリンから、スタテンアイランドまでかなり幅広い地域に渡っています(と言っても、僕はニューヨークに行ったことがないのですが)。ちなみに文章はすべて英文です。

まず、写真を一枚見るごとに圧倒されます。ひとことで言うならば、写真の情報量が多い。なぜか。これが日本の店舗なら、ある程度の当たりというか予想がつくわけです。「勝手」がわかると言えばいいでしょうか。ところがニューヨークの店は見慣れてないですから、その「勝手」がよくわからない。つまり、写真の情報量が多いというより、こちらの情報量が少ないんですね。勢い、店の隅々まで見てしまう。

例えば、本書に出てくる「フランクの店」。看板の左端にWork Clothes、作業服と書いてある。ああ、なるほど作業服を売っている店なら日本にもあるな、と思う。ところが同じ看板の右端にはSporting Goodsと書いてある。つまり、作業服兼スポーツ用品店。これは日本ではあまり聞かないタイプの店です。さらに見ると、何やらボーイスカウト用品も売っているらしい。加えて、なんと釣具まで置いてある。改めて店のショーウィンドーを見ると、NYヤンキースのユニフォームとトレッキングシューズと釣り竿が並んでいるという有様。

一体、何屋さんなのか。ニューヨークではこれが当り前なのか。あるいは彼の地でもこういう店は珍しいのか。果たして、写真を目の前にしてうーんと考えこんでしまうわけです。

あるいは「マリーランド蟹店」。 ガラス窓にはLive Crabsの文字。日本でも活魚という言い方があります。「活き蟹」というところでしょうか。蟹だけで商売になるのだろうかと思ったら、どうやら海老や魚なども扱っているようで、よく考えたら、日本にも「かに道楽」などはありますね。アメリカも日本も案外あまり変わらないのかもしれないな、と思って、改めてこの店の写真を見返していると、窓にはなんと簾がかかっているではないですか。ここでまた、はたと考えこんでしまうのです。ニューヨークでも簾は売っているのだろうか。それとも日本から持ち込んだのだろうか。簾は今、どこまでインターナショナルな存在なのか、と。

僕はこんなふうに本書を楽しんでいるのですが、もちろん、切り口次第でさまざまな眺め方はできるでしょう。例えば、外観のカラーリングだけに注目するのも楽しいですし、ショーウィンドウの飾り付けを比較してみるのも面白いものです。一番目に入ってくるのは、やはり看板。そこで使われている書体もバリエーション豊富で、グラフィックデザインに関心がある方なら、じつに興味深い資料になるのではないでしょうか。何よりもしっかりとした造本でカラー写真豊富。それでこのお値段はかなりお得だと思います。

今回の副読本としては『フォントのふしぎ』を挙げておきます。欧文フォントの日本人専門家が、GODIVAやDEAN&DELCAなどのお馴染みのブランドを始め、看板やパッケージで使われている欧文フォントをもとに、楽しい解説を繰り広げてくれます。さしずめ、日本語ガイドによる欧米フォント旅行記といった雰囲気。こちらもグラフィックデザインに興味のある方に一読頂きたい本です。
『フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?』 (小林章、美術出版社) 

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