『水越武写真集/熱帯雨林』(岩波書店)

熱帯雨林の写真集というと、なにやら「お勉強的」な匂いがするかもしれませんが、こういうのが意外と見ていて飽きません(と、紹介しておきながら申し訳ないのですが、Amazonでも現在取り扱いしていないということなので、興味があれば図書館などで探してみてください)。

例えば、夕焼けに染まるボルネオの海の写真が本書の中にあります。僕の場合、そういう写真を目にすると、まず、その海にイカダを漕ぎ出している自分を想像するわけです。写真の中に自分自身が入り込むんですね。そして、そんな夕焼けの海に漂っている状況を想像しながら、「えらいことになってしまったな」と思うわけです(勝手に入り込んでおいて、何なのですが)。「こんな夕暮れの海の上で、帰る方角さえわからない。もうすぐ日も暮れるし、どうしよう」と。「ああ、心細いなあ」と思いつつ、「それにしてもきれいな夕焼けだな」と、ため息をもらします。これで「夕焼けの海の空想」は一丁できあがりです。次にアマゾン河の写真があれば、やはりその写真の中に入り込み、「えらいことになってしまったな」と。基本的には同じことの繰り返しです。

世の中の人たちが写真集を見ながら何を考えているのか訊いてみたことがないので、ひょっとすると、かなり変態的な楽しみ方なのかもしれませんし、それのどこがおもしろいのかと問われたら返す言葉がありませんが、本来、個人的な楽しみ方というものは、他人に理解されにくい、多少となりとも変態的な傾向にあるものではないでしょうか。空想を逞しくするためにも、けっこう写真の隅々まで目を凝らしたりします。葉っぱの上に虫だけが写っている写真とか、そういう写真には入り込みません。そこまではしません。

入り込める余地があるという意味では、佐内正史の『message』も良い写真集です。こちらは日本のどこにでもありそうな街のありきたりな風景ばかりですが、眺めているうちに知らない街に迷い込んだような錯覚が起きます。「えらいことになってしまったな」と、ここでもやはり同じことを繰り返すわけです。
こちらも残念ながら絶版になってしまい、古本でもかなりの価格になっていますので、同好の士がいましたら、図書館で借りられることをおすすめします。
『massage』(佐内正史、平凡社)

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