『鉄コン筋クリート』(松本大洋、小学館)

「男の子って大変だ」というマンガですね、これは。
男の子は物心ついたときから、他者と戦うことを運命付けられているようなところがあって、それはたぶん死ぬまで変わらないんじゃないかと思います。戦うというのは、殴り合うことではないですが。

たまに若い男子がいきなり「自分との戦いです」みたいなことを言うと、「それよりまず、他人との戦いなんじゃないの」と言いたくなったりする、僕のような歳になると。他人と戦って、相手の力量を知って、自分の力量も知ってということを踏まえて、そこから初めて、「力」への敬意というものが生まれてくるんだろうと思います。自分の方が強い、と感じるなら、そこから相手への「思いやり」も生まれてくるわけです。

初対面の男同士が出会ったら、まず瞬間的に相手の力量を確認することから始まる。これはたぶん、男はみんなそうだと思います。僕なども未だに「殴り合ったら勝てるかな?」と考えたりする。その点はたぶん、ダライ・ラマも同じじゃないかと思いますね。だから、いきなり「ね、僕たち仲間なんだから仲良くしようね」という男の人は、僕はあまり信用しません。そういう人はたぶん、「力」というものを知らないから。

力を知って、それをコントロールできるようになって、ということが男子の人生にはずっと付きまとうし、自分より強い男はいくらでもいるし、自分の弱さも認めないといけないし、その中ではじめて「自分との戦い」も出てくるし、ということで男の子の人生って大変だと思うわけです。この作品にはそういうことが全部つまっている、という点で大変優れた「男の子論」になってるな、と思います。

で、女の子たちはそういう男子たちを「バカみたい」と思ってりゃいいんだと思います。「男子って、ほんと、いつまでたっても幼稚だよね〜」と眺めていればいい。それで男子たちも「女子はわかってねえよなあ」と呟いてりゃいいんだと思う。それがたぶん男子と女子の美しいあり方かな、と僕は思います。
この作品に女性がほとんど登場しない理由も、女子の視点が入ってくると、男子の世界はあっけなく崩れてしまうからかもしれません。

松本大洋のお母さんは、工藤直子さんという詩人ですが、この人の『こどものころにみた空は』は、僕たちがまだ男子と女子に別れる以前の、瑞々しい原初感覚にあふれていて、ああ、そうか、ここから僕たちは大人になっていたんだな、と思い出せてくれます。
『こどものころにみた空は』
(詩/工藤直子、絵/松本大洋、理論社)

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