カテゴリー ‘ 2008年の手紙

ホットコーヒーとピザトーストで

親愛なるサムへ
ホットコーヒーとピザトーストで、今年最後の朝食をとる。むろん、自分で作る。
ピザトーストの作り方は、5枚切りの食パンにオリーブオイルを塗り(マーガリンが切れていたので)、そこにウィンナーソーセージ1本(シャウエッセンでもバイエルンでも特売のものでよい)をキッチンバサミで適当に刻み、上からとろけるスライスチーズ1枚をこれも適当にちぎって載せ(ちぎるのがコツ)、あとはマヨネーズをうねうねと絞り出し、ケチャップもちゅるちゅると垂らして、オーブントースターで3分焼くだけである。
ゴキゲンな気分なら、ここに玉ねぎのスライスとピーマンの輪切りをプラスしてもよいだろう。が、めんどくさいので僕はそんなことはしない。ただ、バジルの粉末があるので、たまにそれを振り掛けたりはする。
料理を毎日作るコツはおそらく、手を抜けるところは手を抜く、ということだろうと思う。おいしい料理を作るコツは手を抜かないことだが、それは毎日作る料理とはちょっと違う。「毎日」というのは、あくなき現実の連続なので、か弱き人間はしばしばその渦中にあってへこたれる(少なくとも僕はしばしば)。そのときに、「手を抜く弱さ」を許すことが肝要である。
しかしながら、ホットコーヒーには手は抜けない。ここで手を抜くと、すべて台無しである。その日一日、というよりその一年が台無しである。
まず、僕の場合は、カップはiittalaのターコイズブルーのマグカップを使用する。コーヒーカップにしては高価かもしれないが、飲みたくもない上司と一緒に焼鳥屋に行って、おまけに割り勘だったことを思えば安い。だいたい、我々はろくでもないことには金は払う割りに、大事なコーヒーカップには手を抜きがちである。
コーヒー豆は、小川珈琲の「ブレンド3/粉500g」である。このセレクトに君は異論があるかもしれない。むろん、僕も世の中にはもっと旨い豆があることは知っているが、コストパフォーマンスを考えると、これがベストだという結論に達した。最上のコーヒーを求めて、コロンビアの奥地まで飛ぶわけにはいかないのである。半径300m以内で手軽に入手できないと常用には適さぬ。
また、本来であれば、粉タイプを買ってくるのではなく、豆を自宅で挽くのがよいこともわかっている。痛いほど十分にわかっている。しかし、それはあまりにもめんどくさい。また私見ながら、男がくるくるとミルでコーヒーをひく姿はあまり絵にならないのではないかと思う。では、ピザトーストにマヨネーズを垂らしている姿は絵になるのかと言われたら、返す言葉はないが、少なくともミルの工程を省くことは、僕の中では手抜きにはならない。

長い手紙になりつつあるので読むのが嫌になったら、ここで止めて欲しい。この後も重要なことは何も書かないと思うので、止めてもまったく差し支えない。

この小川珈琲を、無印良品の木製スプーンで4杯分。ドリップは、カリタのペーパーフィルターを使用する。コーヒーメーカーは使わない。カップの上に、逆三角形のドリーッパー(プラスチック製)をそのまま載せて、そこにフィルターをセット。むろん、カップはあらかじめ温めておくが、それ以外は適当な感じだな。
かつてはネルドリップもサイフォン式も試してみた。ネルドリップはたしかにペーパーよりも雑味がなくていいのだが、意外と手入れが面倒。サイフォンは、一番おいしく淹れられるが、場所をとるんだな。それでやめちゃった。
ただし、コーヒーポットには気を使う。野田琺瑯の月兎印が家庭で使うには一番よいと思う。これでお湯をかんかんに沸かして、ちょろちょろちょろとドリッパーの中に注いでいく。コーヒーの粉がふんわりとクリーミーに盛り上がってきて、もっとも幸福な瞬間である。コーヒーメーカーを使うと、この幸福感が味わえないのである。ドリッパーにお湯をそそぐだけの仕事があれば、してもいいと思う。

いつだったか、表参道の「大坊珈琲店」というところでコーヒーを頼んだときに、2番とか3番とかの特有のメニューもさることながら、何よりもこのドリップの時間のかけ方に戸惑った。
ちょうど雨上がりの空の下、濡れた朝顔の葉がその先から水滴をぽたりぽたりと落とすような感じで、白シャツを着た女性が大変ゆっくりとお湯を注ぐ。注ぐというより、お湯の雫を落とすといった方がふさわしい。カウンターのこちら側から思わず、「もう少し早くしてもいいんじゃないですか」と声を掛けたくなるぐらい時間をかける。とてもこんな気長な真似はできないので、蛙のションベン程度のスピードで注いでいく。
あとはカップ8分目ぐらいまで注いだら出来上がり。ターコイズブルーのカップに漆黒の液体が沈んでいるさまを見ていると、まるで静かな湖畔のほとりに佇んでいるようでもある。そして、寝起きの口腔に、カッと熱いコーヒーが酸味と苦味とコクと共にあふれていくのがベストであろう。いろいろ書いたが、熱いコーヒーが一番だと思う。
これが標準的な自宅での朝食。ちなみに、今まで喫茶店で食べて一番おいしかった朝食は京都の室町高辻、京都銀行本店の裏手にある「タカギコーヒー」のモーニングAセット。ここはわりと有名だけど、厚切りトースト、炒めたウィンナー、スクランブルエッグ、ポテトサラダという取り合わせで、僕の理想に近い。この朝食のためだけに京都に引っ越そうかと思うほどだった。
さて、本当は今年を振り返って、いいことも悪いこともあったけれど、いい一年だったということをしみじみと書こうと思っていたのに、例によってすっかり与太話になってしまった。サム、よいお年をお迎えください。
2008/12/31 Wednesday


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